
東京タワーを見ると
ひとりTPD
大藤 史
和紙を再生させる工程に、繊維に戻す作業がある。
水に浸して解し、もしゃもしゃの状態に戻すのだ。
作業中いつも、この和紙が辿ってきた道のりに思いを巡らす。
楮としてこの世に生を享け、和紙となり人の手に渡り、
書をしたためられ、一度は役目を終えたのち、
私のところへやってきた。そしてまた形を変え、人の手に渡る。
そう思うと、作品を見送るとき、なんとも感慨深い気持ちになる。
旅路はまだ続くのである。
さて、旅といえば私は、子どもの頃、キャリーケースで旅をするのが夢だった。
正確にいうと、コロコロが付いたあの大きな箱を引きずるのに憧れたのだ。
その夢が叶ったのは26歳のとき。
兄に買ってもらったキャリーケースが、私の旅の相棒となった。
ほとんど正方形で深い緑色のそのキャリーケースは、まるでカナブンみたいである。
このカナブンとともに国内外、あちこち旅してきたのだが、
旅先での収集物で、帰りはいつもずっしり重たくなる。
鉄くず、石ころ、紙きれ、木へん、、、など、自然物と人工物、さまざま。
形に一目惚れしたり、手触りに感動したり、匂いが懐かしかったり。
そういう琴線に触れるものを、度々連れて帰っている。
そのコレクションはアトリエに並んでいて、
ものを作るときに多くのヒントをくれたりする。
自身のアトリエで素材に触れる時、物理的な距離を越えて、
自分の内面との対話を感じることがよくある。
旅先から持ち帰ったものを観察し、自身の心象風景や遠い記憶の中に、
「惹かれる」という心情の根源を探る。
そういう行為が、しみじみと楽しく、創作意欲を掻き立てる。
そしてまた、新たな収集物(感覚)を求めて、私は旅に誘われるのである。
とかいうと、なんだか綺麗に作り手っぽくまとまる気もするが、
本当はカナブンを引きずる口実を探しているだけかもしれない。
Profile
大原 萌
アーティスト、デザイナーとして神奈川県を拠点に活動する。2014年より造形作家としての活動を始め、全国のギャラリー等で個展を開催している。
自身のアトリエにて、その日その時の「調べ」と、体の細胞との対話に身を任せ、常に直感的な製作を行なっている。
Moe Ohara
Based in Kanagawa Prefecture as an artist and designer, she began her career as a figurative artist in 2014, and has held solo exhibitions at galleries nationwide.
She always creates intuitively, letting the "atmosphere" of the day, and her body's cells interact with her.